どういうときに歯の神経をとらなければいけませんか?

歯の神経に細菌が感染してしまったり、歯の神経が生活力を失い放っておくと根の先に炎症を波及させてしまう恐れがあると判断されたときに歯の神経をとる必要があります。

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皆さん「歯の神経をとりましょう」と歯医者さん言われて治療をうけた経験はありませんか?

そもそも歯の神経とはなんでしょう。

正式には歯髄と呼ばれ、歯の内部にある空間を満たしている組織のことです。
どのような役目があるかというと、痛みを感じる神経組織が存在していることで外部からの刺激に対して防御反応などを示します。「歯の神経」と一般に言われていますが、実は血管もあり、その血管を通して水分や栄養の補給なども担当しています。歯の神経とは実はこのように重要な組織なのです。歯科医師であればこの歯髄にかわるものはない事を知らない人はいないでしょう。

しかし、一般的に以下のような症状が出た場合は残念ですが神経をとらなくてはならないこともあります。

1. むし歯や外傷などで歯の神経に細菌が感染し、後戻りのできないほどの炎症、ずきずきと持続した痛みなどが起きてしまった場合

2. むし歯もしくは歯が欠けた、ぶつけたなどの状態を放置して歯の神経が腐敗して生活反応を示さなくなってしまった場合

3. その他、かぶせものを作るなどの理由で、炎症や症状がなくとも「便宜的に」神経をとる場合などが挙げられます。

ここで是非皆さんに知っていただきたい事は、炎症という言葉です。炎症とは生体が何らかの有害な刺激を受けた時に免疫応答が働きそれによって生体に出現した症候のことです。

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つぎの5つの兆候を総じて炎症と言われます。
1.発赤(赤くなる)
2.腫脹(腫れる)
3.発熱(熱がでる)
4.痛み(言葉の通り痛み)
5.機能障害(動かなくなる、機能しなくなる)

です。 私たちの体の表面に現れる炎症は皆様もお解りになるでしょう。
例えば転んで膝をぶつける出来た擦り傷の周りは赤くなりそして腫れる。そして動かしにくくなる、または痛みがあるなどです。一般的に炎症は原因となる刺激が除去されれば自然治癒を期待できますが、歯は、根尖とよばれる歯の根っこの先にある非常に細い穴と歯の内部が交通しており、一度歯の内部に炎症が波及すると血管自体がダメージを受け修復が不可能な状態になります。炎症を起こした歯髄そのものが炎症の原因となるため、いわゆる歯の神経の除去が必要になるのです。歯の内部で炎症を起こした場合、歯の内部の血流も失われるため、化膿止め(抗生剤)を服用しても歯の炎症は治まりません。
詳しくは(抗生剤(化膿止め)で根の病気は治るのか?参照)

文献によると、後戻り出来る程度の炎症(歯髄充血と呼ばれます)であれば、一定の条件を揃えて炎症を起こしている原因を除去すると炎症は治まるという事が解っています。では「後戻り出来ない程度の炎症」と「後戻り出来る程度の炎症」をどのように見極めればいいのでしょうか?

本来、歯の中の血流量などを見たり正確に計測することができれば、炎症の度合いがわかり神経をとらないといけないほどの炎症であるのか、そうでないのかが解ります。残念な事に歯の神経は歯という硬い組織に覆われているので、この炎症の度合いが大変解りにくいのです。現代の医学を持ってしてもこの炎症の度合いを治療前に100%正確に調べる事はできません。

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しかし先人たちが残してくれた研究文献にどのような症状の時、歯の神経が、病理的にどのような状態であったかを推測するポイントが示唆されています。

私たちはこれらをもとに歯髄の状態を診断して処置を行います。このように大事な神経をとるという意思決定には、文献、すなわち科学的な根拠をベースにした世界基準の診査、診断をもとに様々な角度から考察が必要です。

そのため我々は処置の前に十分な問診を行いその症状の既往を知り、そしてできるだけ的確な診断を行うために十分な時間をつかい、診査を行います。その後診断と現状推測されることを説明いたします。そして治療方針の選択肢を呈示させていただき、十分な話し合いのもと処置は決定されます。

歯の神経を残すにしても取り除くとしても歯の中は非常に複雑で例え専門医が治療を行ったとしても治療の成功率は100%でありません。また、歯の神経を取ったつもりでも取りきれない神経も存在することがわかっていますので、非常に専門性の高い治療の一つであると言えます。

ひとつの歯にひとつの大事な神経ですから、専門医レベルの診断力を持つ歯科医師に相談することをおすすめいたします。

執筆者:上松 丈裕PESCJ6期)