根の治療の最後に「根の中を詰めました。」と言われました。封鎖する理由を教えてください。また、どのような材料の薬が用いられたのですか。

1、なぜ根の中を詰める必要があるのか。 

根尖性歯周炎の原因は根管内への細菌感染であり、その治療は根管内の細菌を除去することです。

根管内の構造は複雑に枝分かれしているので、一度侵入した細菌をゼロにはできません。

しかし、清掃器具または洗浄溶液を用いて、根管内の細菌の数を減らすことは可能です。

拡大清掃および薬剤洗浄によって根管内を殺菌した後、仕上げとして根管内の空洞を封鎖する必要があります。

この根の中を詰めることを根管充填と言います。

 

 

 

 

 

 

 

 

(Cohen’s Pathways of the Pulp)

根管充填の目的

①「根尖孔や根管口からの再感染となりうる交通路の封鎖」

・根尖孔からの組織液の侵入を防ぐ。

・根管口から、口腔内由来の細菌が侵入するのを防ぐ。

 

②「根管内の除去できなかった細菌や刺激物質を埋葬する」

 

 

 

 

 

 

(Shigetaka Nagaoka ,JOE,1995)

・厳密に根管内は無菌状態にはできないので、根管内に死腔と呼ばれるスペースが出来ないようにしっかりと塞ぎ、取り除けなかった微小な部位に残存してる細菌を埋葬して不活性化させ、再増殖を防ぎます。

 

これらの理論に基づいて根管充填は行われています。

2、根管充填材にはどのような材料があるのか。

一般的に、『ガッタパーチャ』と『シーラー』が組み合わせて使用されます。

・『ガッタパーチャ』は根管内の空洞を埋める主体となるもの。

・『シーラー』はガッタパーチャと根管内壁との隙間を埋めるものです。

また、症例によっては『MTA』という材料が選択されることがあります。ほとんどの場合『MTA』は単独で使用されます。

 

『ガッタパーチャ』を使用する目的

根管の太さに合わせて各規格化されたガッタパーチャを適合することにより、根管内の空洞を満たし、流動性のあるシーラーを根管内に均一に行き渡らすことです。

ガッタパーチャの性質として、

利点・植物の樹液凝固物を精製したものであり、比較的扱いやすく、再治療の際も取り除くことが容易です。

欠点・最大の欠点は根管壁と接着性が無いことです。また樹脂のため、加熱軟化した後冷却により体積収縮することがあります。

 

『シーラー』を使用する目的。

・ガッタパーチャはその性質上の欠点である体積収縮や、または湾曲度のきつい根管では十分

に根尖部まで加圧できないため、根管内に小さな死腔を生じることがあります。

シーラーは、その流動性から、ガッタパーチャで満たせない根管内の微小なスペースを封鎖することを目的に使用されます。

『MTA』ついて。

穿孔や、根尖孔が開いてる根管では、ガッタパーチャ+シーラーの併用よりも

MTAが最適応となることがあります。

MTAの性質にとしては以下の特徴があります。

利点・親水性であるため湿潤下でも硬化します。また生体親和性もよく、抗菌作用も持ちます。さらに硬化時に僅かに膨張することと、根管壁と接するMTA表面の境界にアパタイト結晶を生成するため封鎖性にも優れます。

欠点・操作性が劣ります。また一度硬化すると取り除くことは困難です。根管充填材としては薬事未承認です。

 

3、まとめ

根管充填材が根尖部からはみ出ず適切な位置にとどまり、また気泡の混入もなくしっかりと堅密に充填されれば、根管充填は歯牙の安定した予後をもたらす一つの条件となりえます。

日々、新しい材料や術式などが研究されていますが、現時点では全ての症例に対応できる根管充填の材料または方法はなく、我々歯科医師は的確な診断のもと、症例ごとに最も相応しい治療法を選択することになります。

そのため、術前の説明でどのような方法または材料で根管充填が行われるかを知ることは、治療を受ける歯の形態や状態などに対して、より一段と理解を深めていただけると思います。

 

執筆者:白瀬 浩太郎(PESCJ 9期)

参考文献

石井宏 世界基準の臨床歯内療法 医歯薬出版 2015年第一版

Shigetaka Nagaoka, Youichi Miyazaki, Hong-Jih Liu.Bacterial invasion into dentinal tubules of human vital and nonvital teeth.J Endod.1995;21:70–73

Cohen’s Pathways of the Pulp

Mitchell B. Boxer,Leslie C. Grammer, Nicholas Orfan.Gutta-percha allergy in a health care worker with latex allergy.J Allergy Clin Immunol.1994