根の治療を安心して任せられるかどうかは歯科用顕微鏡(マイクロスコープ)があるかないかで判断すればよいですか?

それだけで判断すべきではありません。

近年の歯科治療における器材の進歩はめざましいものがあります。
根の治療の分野で言えば、皆様にもわかりやすいところで歯科用顕微鏡(以下歯科用マイクロスコープ)などが挙げられるでしょう。治療用の椅子に腰掛けて、歯科用マイクロスコープが見えると非常に頼もしく感じますよね。確かに歯科用マイクロスコープは暗く見えづらかった歯の中を明るく照らし、最大倍率にすると20数倍にも拡大し、肉眼では見えなかった細かいところを見ることができます。歯の神経(歯髄)や、感染してしまった組織、以前つめた根管充填材などを含め、これまで確認できなかった細部まで確認できるようになり、肉眼では見逃されてしまっていた根管を発見できることもあります。また健康な歯の削り過ぎを防ぐ上でも大変な威力を発揮し、より精度の高い根の治療を追求する上で、現在歯科用マイクロスコープは非常に重要な道具の一つとされています。

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では、歯科用マイクロスコープを使用さえしてもらえば、根の治療を安心して任せられるか、つまり根の治療の高い成功率が期待できると言えるでしょうか?

意外に思われるかもしれませんが、それは難しいと言わざるを得ません。

今からその理由をご説明したいと思います。
まずおさえておかなくてはならないことは、歯科用マイクロスコープはあくまで視覚を強化するだけのものであり、歯科用マイクロスコープが自動的に病気の原因を発見してくれたり、治療してくれたりするような道具ではないということです。
また、歯科用マイクロスコープが出現する前の時代においても、無菌的な環境下で適切に行われた根管治療の成功率は(文献によってある程度数字に幅がありますが)根管治療が初めての歯の場合、おおよそ90%程度、やり直しの根管治療では、約70%程度と報告されています。

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これらの数字をみなさんはどのように見るでしょうか。

無菌的な環境下で適切に行われた治療であれば、歯科用マイクロスコープを使用しなくても、ある程度高い成功率が期待できることが分かります。つまり、歯科用マイクロスコープの使用は(勿論その一助にはなりますが)、成功率を上げるための本質的な要因ではないことがおわかり頂けると思います。
勿論、安心して任せられる治療には、成功率を1%でも上げられる治療法を追求すべきですから、可能であれば歯科用マイクロスコープの使用が望ましいとは言えます。

ただ、あくまで「根の先の病気の原因は細菌感染」ということがわかっている以上、治療を無菌的な環境で行わなければ、歯科用マイクロスコープのあるなしに関わらず病気を治すことは難しくなってしまうのです。

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治療を安心して任せられるかどうかを判断する上で重要なこと、すなわち治療の成功率を上げるための本質的な要因とは、十分な診査による正確な診断、診断に見合った治療方法の選択、そして無菌的処置、様々な科学的根拠に裏付けられた治療手技です。

 

歯科用マイクロスコープは精度の高い根管治療を支える非常に優れた道具ではありますが、それ以上でもそれ以下でもありません。歯科用マイクロスコープを使用する以前に無菌的な環境が整えられていること、また歯科用マイクロスコープを使用する場合も、それを使いこなし治療の成功率を上げる為には特別なトレーニングが必要となります。治療用の椅子にただ歯科用マイクロスコープがあるかどうかで、根の治療を安心して任せられるかを判断すべきではありません。

根の治療を任せられるかどうかは、治療を受ける側からするとわかりにくいとは思いますが、敢えて挙げるとすれば、

・診査を丁寧に行われていること
・診断についての説明が納得できること
・無菌的処置の為の環境が整っていること
・治療時間が確保されていること(少なくとも一回につき60~90分程度)
・根管治療についての特別なトレーニングを受けた術者により行われること

 

以上が満たされた上でのマイクロスコープの使用は、更なる成功率の向上が期待できるでしょうし、以上が満たされていない環境下で歯科用マイクロスコープを使用しても、成功率の向上は期待できないかもしれません。

この文章が根の治療でお悩みの方々の参考になることを望みます。

執筆者:上野 光信(PESCJ5期)