Q:歯を転倒で打ちつけ、折れてしまいました。痛みもあるのですが、どのようにすれば良いでしょうか?

A:まずはかかりつけ歯科医院を直ちに受診してください。場合によっては神経の処置も必要となりますし、一度傷ついた歯は自然には治りません!

転倒して歯が欠けた、というご経験をされた方はおられませんか?「歯の外傷・歯の破折」と呼ばれる外圧による歯の損傷は大人・子供を問わず起こり得ます。さらにその損傷具合は人によって様々で、一概に「この治療法で万全です!」とはなかなかなり得ないのが実情です。

歯のエナメル質や象牙質のごく一部、あるいは歯髄と呼ばれる神経・血管部分には多少の自力修復・防衛能力はあると考えられるものの、歯全体で考えれば、「自然治癒」はほとんどない、といって良いでしょう。皮膚や骨のような治癒・再生能力はありません。ですから外圧によって損傷してしまった場合、多くは人の手を入れて、代替の人工材料を使用して「治癒」ではなく「修理」することが残念ながら前提になります。

しかしながら、外傷が起こってしまった場合でも、初期対応によっては元に近いような修復が可能な場合も少なくありませんので、どのような対応が良いのかご説明させていただきます。

 歯の外傷に対するガイドラインが存在する

歯の外傷は突然起こることが多いので、患者も術者も慌ててしまいがちですが、

歯の損傷の部位や、範囲

抜けてしまっているのか、それとも食い込んでしまっているのか

骨まで達しているのか、どうか

損傷後どの程度の時間が経過してるのか

どのような症状があるのか

など損傷の状況と症状の状況を詳しく調べ、どのような治療方法が選択肢として挙げられるのかを判断することから始まります。

幸い、歯の外傷に対するガイドライン「 世界外傷歯学会 ガイドライン2020 (the  2020  IADT Dental Traumatology Guidlines)」が存在するので歯科医師はこのガイドラインを参考に治療することになります。またガイドライン自体も数年に一度アップデートされており、現在では2020年に改定されています。

非常に大まかな流れですが下記に紹介します。(頭部や顔面部など、口腔内以外に大きな損傷がないことを前提とします)

<歯の一部、あるいは広範囲が欠けてしまった、食い込んでいる>    

 この場合、もし欠けた破折片があれば、直ちにその破折片も持ってまずは歯科医院を受診してください。欠け方によっては接着などによって戻せる可能性もあります。どの部分で折れているのかでかなり処置内容は変わります。歯茎より上で折れているの下で折れているのか、折れている範囲に神経や血管が見えているのか、また動揺が激しいのかそうでないのかなど、歯科医師がその場で応急処置をしつつ、診査診断をしていくことになります。

<歯が抜けてしまった、または抜けそうになっている>  

 この場合はかなり気持ちが動転する場合がありますが、この場合もできるだけ早く歯科医院を受診してください。抜けてしまった歯でも元に戻せる可能性があります。(再植)大切なのは「自分自身で歯をよく洗わない」「抜けた歯を乾燥させない」ことです。牛乳、生理食塩水、保存液などに抜けた歯を浸漬して歯科医院を受診するのが良いでしょう。特に「抜けてからの時間」も重要なポイントになってきますので、出来る限り早期に歯科医院を受診しましょう。

<子供の場合は?>

  お子様の場合であっても基本的には同様の対応をする必要があります。特にお子様の場合は乳幼児期(1~2歳)と学童期(7~8歳)に多く、転倒や遊びやスポーツなどで受傷する機会が多くありえます。乳歯と永久歯では対応が多少異なる面はありますが、やはり一生を共にする永久歯の受傷が最も将来に影響を与えますので、受傷がわかり次第、直ちに歯科医院を受診しましょう。

日頃から受診している「かかりつけ歯科医院」が頼りになります

歯が外傷を受けた場合、直ちに歯科医院に行こうにも、日常から定期検診等をしていないといざというときに対応が遅れてしまうかもしれません。もちろん現在ではスマートフォン等で検索することも可能ですが、歯の外傷の場合、緊急を要する事態ですから、出来る限り信頼できる歯科医院を知っておく方がスムーズかつ迅速に処置に移ることができるでしょう。

また歯の外傷はかなりの期間の経過観察を要したり、また歯髄(いわゆる歯の神経や血管)の処置を行わなくてはならないこともあります。そのような場合には、かかりつけ歯科医院からさらに歯髄の処置のスペシャリストである歯内療法専門医を紹介してもらう例も存在します。一生使う歯ですので、歯内療法専門医で正しくかつ迅速に診査・診断・処置してもらうことは極めて有効な専門医へのかかり方、と言えるでしょう。

いざというときのためにもぜひ近隣でかかりつけ歯科医院を見つけておくことをお勧めします。

執筆者:小長谷 香PESCJ12期生)