根の治療をした歯はどのくらい持つのでしょうか?

「歯の根の治療(根管治療)を行った歯は長く持たない」

「根管治療を行った歯は割れやすい」

と聞いたことがあるかもしれません。

米国で報告された、根管治療を行なった歯で、残念ながら抜歯に至った原因調査では、被せ物(補綴物)の問題によるものが約60%、歯周病治療の問題によるものが約30%、歯内療法(根管治療、外科的歯内療法)の問題によるものが約10%であり、抜歯に至る原因では、補綴物や歯周病が大きく関係していることが報告されました。1)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

また2004年に米国にて報告された、約140万本の根管治療を行った歯の8年後の生存率を調査した研究では、約97%が口の中に残っていたと報告されています。その中で抜歯となった歯のほとんどに補綴物の治療がされておらず、補綴物が入っているものと比較すると約5倍程度抜歯となることがわかりました。2)

これらの研究から、抜歯になる原因として、歯内療法よりも補綴物や歯周病が大きく関わることが言えると思います。ではなぜ根管治療を行った歯は長く持たない、割れると言われるのでしょうか?

補綴の問題によるもの

実は、根管治療後の歯自体の硬さは神経(歯髄)の有無は関係なく、ほぼ同じ程度とされています。3)なぜ、根管治療を行った歯は長く持たない、と言われるのでしょうか?

う蝕により歯の神経が見えてしまい神経を取らなければならない場合や根の先の病気(根尖病変)の治療の場合に根管治療が必要となります。根管治療の目的は根尖病変の予防と治療です。そのために歯の神経または根の中(根管)の感染物を除去する必要があり、そして薬剤を根管内に貯留させ、清潔になった根管内を密閉するためのスペースを確保する必要があります。これらの理由から、根管治療は根管を最低限削る必要が出てきます。しかし必要以上に根管を多量に削ることで、根管が薄くなり、強度が弱くなり、破折に繋がってしまいます。

また、根管治療が必要な歯というのはそもそもう蝕が大きかったり、以前の治療で歯のほとんどを失ってしまっている場合も少なくなく、そのような場合も歯質が薄くなり強度が弱くなってしまうことにつながります。

歯自体の強度が変わらなくても、構造的に割れやすくなってしまうことが言えると思います。

また、歯が割れてしまう補綴上の問題によるものの理由の1つとして、根管治療後に何もしないまたは残っている歯が多いため部分的な詰め物を行うなど不適切な補綴治療は歯の強度を著しく低下させるとされています。特に奥歯(臼歯)では歯が残っている量(残存歯質量)を考慮して、適切な被せ物(咬頭被覆冠)を選択する必要があります。 4)

歯周病の問題によるもの

次に歯周病のの問題によるものですが、単純に歯周病によって歯を失うこともあります。根の病気は歯の中の感染が病気の原因ですが、歯周病は歯の外側からの感染が原因となるため、根管治療のみではコントロールできません。歯周病は時間やプラークコントロールの状態とともに病態が変化するため、治療介入のタイミングが重要となり、影響を与える要因になります。

根管治療後の歯が何年持つのか、具体的な数字を言うことはできません。しかし治療した歯が抜歯になってしまうことをできるだけ回避するために、適切に根管治療を行い、形態を考慮した適合の良い補綴物を装着し、歯周病であれば、その治療または予防的な治療を行うことが重要であると考えられます。

 

執筆者:小長谷 香(PESCJ12期生)

1) Vire DE. Failure of endodontically treated teeth: classification and evaluation. J Endod 1991; 17(7): 338- 42.

2) Salehrabi R, Rotstein I. Endodontic treatment outcomes in a large patient population in the USA: an epidemiological study. J Endod 2004; 30: 846– 50.

3) Sedgley CM, Messer HH. Are endodontically treated teeth more brittle? J Endod 1992; 18: 332– 5.

4) Linn J, Messer HH. Effect of restorative procedures on the strength of endodontically treated molars. J Endod. 1994 Oct; 20(10): 479- 85.