抗生剤(化膿止め)で、根の病気は治るのか?

歯の根の治療中、または治療した歯が急に痛みはじめたり、腫れたりした時、また根の中から膿みがでている場合などに、抗生剤(化膿止め)を服用された経験はありませんか?

一般的に歯科医院では根管治療に伴う腫れや痛みで抗生剤を処方することは比較的多いように感じます。
でも、実際には抗生剤を飲むことで根の病気が治るかというと、そうではない、ということをご存知でしたか?

いったいそれはどういうことでしょう?

 

根の病気(根尖性歯周炎)の原因は細菌です。抗生剤は、細菌を抑える薬だからいかにも根の病気に効きそうですよね?
なぜ、抗生剤で根の病気が治らないのか?その回答について今から述べていきます。

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まずは、抗生剤が効く仕組み、ご存知ですか?

飲み薬(内服薬)として抗生剤が処方された場合は、お薬を飲んで、内蔵から吸収され、薬の成分が血管の中に入り、血の流れを通して病気の部位(病巣)に届き、そこである程度の濃度を維持しないといけません。(血中濃度といわれるものです。痛い時だけ飲む頓服としての痛み止めと違って、一日3回食後3日分などという決まりで飲むのはこの血中濃度維持のためです)
点滴や、注射などはダイレクトに血管に入れていくので、飲み薬よりも即効性があるのはこのためです。

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では、このことを根の病気に当てはめて考えてみましょう。

根の病気に効くかどうかは、根の中の細菌を抗生物質でやっつけられるかどうか、にかかっています。 そのためには、根の中に抗生剤がある程度の濃度で届かないといけません。 でも、根の病気(根尖性歯周炎)の歯というのは、神経が死んでいる、もしくは無い状態なのです(壊死歯髄または根管治療歯)。つまり根の中は血管がない状態になっており、血が巡ってません。そのため、抗生剤を飲んでも、他の臓器に届かせるようなしくみでは届かないのです。いくつかの論文では、血の巡りではない経路で根の中のにお薬の成分が届くという報告もありますが、時間がかかる、または効果のでる量が根の中に到達しているかどうか、などに関しては確実な答えがでていません。確実でない効果のために抗生物質を服用することは、耐性菌(抗生物質に対して抵抗性をもつ菌)の発生の問題からも避けなければいけません。

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ここで一つ、わかりやすい例をあげますと、バイ菌だらけの棘が指にささりました。どんどん腫れてジンジン痛くなってきます。

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腐った棘は取らずに、抗生剤だけで腫れや痛みは治るでしょうか?
残念ながら治りません。棘をとらないと腫れは治まりません。
この棘が感染源であり根の治療でいうと感染した歯のことです。
感染した歯を取り除く(抜歯)か、感染した歯を除菌(根の治療)しない限り治らないのです。
さらに根管は指と違って血の流れがないので、抗生剤は効きません。

根管治療は細菌が原因でおこる根の病気(根尖性歯周炎)のための治療です。細菌を減らすためには、根管治療で細菌や、細菌の栄養源となるもの(神経の残骸など)を直接取り除くしか方法はありません。

例外として、感染の広がり(病気の状態)によっては抗生物質の服用が必要な場合もあります。

それは、細菌感染が、根の中だけに留まらず、全身に広がろうとしている兆候があるときです。
その兆候とは、熱がでる、顔が腫れる、リンパ節が腫れる、腫れのせいで口が開かないなどです。
これは、宿主の免疫力と細菌とのバランスがくずれた状態と言えます。
通常、人間の体には細菌を抑える免疫力が備わっているので(例えば、切り傷などでいちいち抗生物質を飲む人はいないと思います。傷から多少細菌が入っても血液内の免疫細胞が細菌をやっつけますので、全身に細菌が広がらず治癒します)根の中の細菌が体中に広がったりすることはまれですが、体の抵抗力が下がってしまうと感染が広がる場合があるのです。重度の場合は入院が必要な場合もあります。また、もともと免疫力が低下してしまう、感染しやすい病気を持っている患者様にも抗生物質が必要な場合があります。

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まとめると、

体の免疫力→感染が広がらないようにしている

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根の治療→感染源(細菌やその栄養源)を取り除く

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以上のことから健康な患者様では根管治療に抗生剤の服用は必要ないと言えますし、安易な服用はむしろ耐性菌の問題などから、避けた方がいいのです。

執筆者:李 光純PESCJ3期)

参考文献

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2. Tuominen RKR, Lehtinen J. Peltola et al. Penetration of erythromycin into periapical lesions after repeated doses of erythromycin acistrate and erythromycin stearate: a pilot study. Oral Surg Oral Med Oral Pathol 1991: 71: 684–688. 

3. Allard U. Antibiotics in exudate from periapical lesions in dogs. Endod Dent Traumatol 1989: 5: 287–291.