歯がとても痛いのですが、根の治療(神経を除去)が心配です。どういう状態であれば根の治療をせずに済むのでしょうか?

 歯髄と呼ばれる神経、血管などの組織が正常と診断された場合、根の治療をされずに済みます。

「痛みがあるのに正常って?」と疑問に思われるかもしれません。痛みがあっても歯髄が正常とは、刺激が加われば痛みや違和感を感じますが、その刺激がなくなると痛みや違和感がない状態も正常とみなします。こういう状態を可逆的性歯髄炎といいます。 具体例では、知覚過敏という言葉を聞いたことがあると思います。知覚過敏とは、冷たいもの、熱いものが歯に触れると痛みや刺激を感じますが、その刺激がないと通常は全く痛みを感じない歯のことを言います。 それに対して、刺激が取り除かれても痛みがしばらく継続したり、全く取れない場合は、歯髄は正常でなはないと判断します。こういう状態を不可逆性歯髄炎といいます。この状態と判断された場合は、歯髄を切除することになります。

ただし術前の診断は歯髄の状態を間接的にしか診断することができないため不確定要素が多く、様々な診査から総合的に判断し、また術前、術中、術後と経過を追いながら判断していくことが肝要です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

また、冷たい刺激や熱い刺激、電気的刺激には全く反応しない場合もあります。そのような状態でも噛む時の痛みを伴う場合もあれば、ない場合もあります。このような状態は神経が死んでいることが考えられます。

実際には歯髄が生きているか死んでいるか判断するには根の中を見なければわかりません。実際に見ることは不可能なので血流量を測定する方法があります。

実際に費用と時間がかかるため、現実的ではありません。

加えて歯髄の状態と同時に根の状態も調べる必要があります。根の状態とは、歯を支える組織に炎症が及んでいるかどうかを判断します。実際には歯をコンコンと軽く叩いて痛みがあるかどうか、根の根元を押さえて痛みがあるかどうか、綿花など柔らかいものを噛んでみて痛みがあるかどうかで根の炎症状態を推測します。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その他、その歯がどのような痛みを経験したかも歯髄の炎症を推測するのに重要といわれています。例えば、今は痛くないが、1週間前に夜も眠れないほどの痛みを経験した歯や今現在、ズキズキしている痛みにおいては、神経の状態はかなり重篤であることが示唆されます。

 

 

 

 

 

 

そのため私達歯内療法専門医は歯髄や根の炎症状態を調べるために痛みの病歴や歯ぐきを押して痛いか、叩いて痛みがあるか、冷たいもの、温かいものの刺激が加わった後、その刺激が長く続くかどうか、電気的刺激を与えて反応するかどうかを調べます。また歯周ポケットや歯がぐらついているかどうか調べて、その痛みが歯周病と関連した痛みであるかそうでないか、それとも歯周病と合わせた痛みなのかを鑑別します。そのような多くの検査を行って、歯髄の状態を推測し、可逆的であれば歯髄を残せますし、不可逆的であれば根の治療が必要になります。正常と判断されても術前の診断は不確定要素が多く、むし歯が深部まで進行していて露髄した時にきちんと出血または止血できることが神経を切除せずに済む可能性が高い条件として重要となります。そのため歯髄を残すためには術前、術中に十分な診査、診断が必要となりますが、歯髄を残せないと判断された場合はきちんと除去することが歯の保存に非常に重要となります。

 

 

 

 

 

 

執筆者:矢島 直・ダニエル(PESCJ10期)