①日本と世界の根管治療の成功率に違いは存在するのか-おそらく存在します-

日本での根管治療の成功率の1例をみてみます。このグラフは何を表しているしょうか?

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これはある期間に東京医科歯科大学に来院された患者さんの根管治療歯を評価したものです。歯の種類に関わらず約半数の50%を超える歯の先端に透過像、すなわち根尖性歯周炎と思われる病変が見られたことを示します。つまり半数を超える歯の根管治療が成功しているとは言えないわけです。「成功率」にすれば50%以下かもしれません。

では北米で専門医が治療した根管治療の「成功率」を見てみましょう。
根管治療(病巣なし)90%以上
根管治療(病巣あり)約80%
再根管治療     70~80%
再根管治療(病巣あり・根尖破壊あり)約50%

この両者の差とは何でしょう?単純に技術の差なのか、あるいはそれ以外の差が存在しているのでしょうか?

②日本の国民皆保険制度の恩恵-全ての国民に平均的な医療を提供-

両者の治療成績の差を生み出す理由の1つに診療環境の違いがあり、そして診療環境の違いの中に皆様のご負担される診療費用の違いも含まれます。
日本の歯科診療は国民皆保険制度のおかげでほとんどの平均的治療を保険で受診することが可能です。国民の多くが国民皆保険の恩恵を受け、健康の維持管理が平均して行き届いていると言えるでしょう。
「世界水準」「より良い治療」と声高に言っても、保険制度が全くない国では受診できる人はごく一部に限定されてしまいます。その点において日本の皆保険制度は素晴らしい制度であることは疑いようがありません。

③成功率のより良い根管治療を受診するために-歯内療法専門医院を受診するという選択-

日本ではまだ聞き慣れない言葉ですが、根管治療を専門とする歯科医師を世界では歯内療法専門医と言い(日本には専門医制度がないので厳密には歯内療法専門医とは呼ばず、歯内療法の専門医師や医院と呼んでいます)、専門医は根尖性歯周炎の原因である細菌を除去するために、診査・診断・技術・環境などの向上に取り組んでいます。
皆様の高い健康の維持増進のために歯内療法を専門とする医院を受診することは最善の選択の一つと言えるでしょう。

④より良い治療にどれだけの価値を見出すか-適正な環境と時間を確保するために-

保険診療で世界水準の治療が必ずしもできない訳では無いかもしれませんが、現実問題として日本と世界の治療料金の差の中に出来る事の差が現れています。その一方で専門医院が自費診療を謳っていても、皆様の健康増進に寄与しなければ無意味です。
医師の技術知識の研鑽はもちろん、医院もその環境が整っていることが根管治療の成功に欠かせません。皆様が医院を選択するひとつの基準として代表的な例を挙げます。

①治療中に清潔な環境を保つために

個別の滅菌済み器具は当然として、最低限お口の中を無菌的な環境にするための「ラバーダム」必須器具の代表です。
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②効果的で清潔な根管治療のために

Ni-Ti(ニッケルチタン)ファイルも根管治療で使用頻度が多く、歯質保存に大変効果的ではあります。が、複数回使用すると疲労し切削効率が失われるため、なるべくディスポーザブルで使用し清潔で安全な治療を行います。通常の歯科医院も保険診療範囲でNi-Tiファイルを採用したいと考えますが高価な器材なため、実際には自費診療での専門医院以外で採用できる医院は少ないかもしれません。
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③より精度の高い根管治療のために

マイクロスコープも歯内療法専門医には必須で、根管の見逃し防止や再治療の際に特に有用です。使用の際には十分な診療時間の確保も必要です。使用による成功率の差は数%程度という報告もありますが、皆様の健康の維持増進のため数%の成功率の積み重ねを重要と考えるのが専門医です。
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ただし、ここでも保険診療でマイクロスコープを設置し診療環境で活用している医院は極少数であると思われ、診療時間もふくめて専門医院での受診がその有用性を発揮します。
いくつか代表例を挙げましたが、「環境」「時間」が根管治療を成功に導く鍵です。医院選択の際のひとつの目安にしていただくと同時に、保険診療の範疇ではどうしても実現が困難で、受診される皆様方には自費診療の形で負担をお願いする機会が多い理由でもあります。
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⑤全ては自身の歯で過ごすために-健康の維持増進を最優先とした治療法を選択-

従来、人の歯は抜歯になれば御自身の残りの歯を支台にしてブリッジあるいは義歯(入れ歯)にして生活せざるを得ませんでした。近年インプラント治療の成績が安定してきたことにより治療の選択枝を増やすことが出来ましたが、あくまでも代替え治療であって皆様自身の天然の歯でないことには変わりありません。
「抜歯する時期を遅らせたい、抜歯本数を減らしたい、自分の歯で暮らしたい」という皆様の希望を叶えるのが歯科医師の仕事です。その意義は単純な費用対効果比にとどまらず、「自分自身の歯」で皆様の健康の維持増進することを可能とするでしょう。

執筆者:高見澤 哲矢PESCJ4期)、山田 雅司PESCJ4期)、下田 隆史PESCJ5期)、上田 和孝PESCJ5期)