去る、2014年7月12 日、13日、新潟市・朱鷺メッセ・新潟コンベンションセンターにて開催された、第35回日本歯内療法学会学術大会(大会長:興地隆史 新潟大学医歯学総合研究科 口腔健康科学講座う蝕学分野教授)に参加してきました。昨年には第9 回世界歯内療法会議(IFEA)が日本で開催さ
れ、日本での歯内療法が新たな発展期を迎えている中、学会テーマ「新時代の歯内療法:エビデンスとアートの融和」とされ、国内外の著名なEndodontistsのphilosophyに触れられる機会となりました。

初日は会員による一般講演の後、東京医科歯科大学名誉教授の須田英明先生による「我が国の歯内療法の現況と将来」と題した特別講演を聴きました。
長らく日本の歯内療法分野を牽引されてきた須田教授のお話は、いつも大変興味深いものですが、今回は医科歯科大学附属病院外来にて収集したデータや、ある時期の保険請求によって得られるデータより、日本の歯内療法の成功率が5 割に満たない可能性あること、その主な原因は、ラバーダムをはじめとした無菌的処置が徹底されていないことにあるのではないかということを提起され、このような問題に対し、歯内療法学会が主導し、治療ガイドラインを策定すること、ラバーダム防湿に関するステートメントを発表することなどをご提案なさっておりました。 また、印象的だったのが、歯内療法といえば根管形成・根管充填といった手技に注目されがちではあるが、大切なのは保存できる歯髄は保存すべきであり、そこを忘れてはいけないこともお話をされておりました。

続いてランチョンセミナー、デンツプライ賞受賞者講演のあと、本学術大会の目玉であるSynguk Kim 教授による招待講演を聴きました。Kim教授は現代の歯内療法をリードするペンシルバニア大学歯学部歯内療法学の主任教授でいらっしゃり、ご講演のテーマは「Endodontics vs. Implants: Modern
Clinical Dilemma」と題し、文字通り世界に共通した歯科医療のジレンマ、すなわち保存可能であるにも関わらず、様々な理由から抜歯してインプラント修復をおこなう治療についての問題点を、様々な説得力のあるエビデンスをご提示なさりながら提起されました。そして、歯内療法外科を含めた歯内療
法を適切に行えば、インプラントに置き換えられるであろう多くの歯が救えることを明快に解説していただきました。中でも、インプラントの分野で示されるインプラントの「生存率」と歯内療法の「成功率」について、その数字の裏に隠された大きな誤解について解説され、「歯内療法の成功率が低い
ので、歯をインプラントに置き換える」という誤った認識に対して、我々はどう解釈すべきなのかを示されました。また、最先端の歯内療法についてもご紹介いただき、なかでもバイオセラミックなどの生体親和性の高い材料を使用した歯内療法や、従来の手技では難しいとされていた下顎第二大臼歯部の歯内療法外科においてピエゾサージェリーを併用した手技の紹介など、我々臨床家にとって夢のあるご講演となりました。招待講演が始まる頃には会場がほぼ満員で立ち見がでるほどの盛況で、Kim教授の日本での注目度の高さをうかがえました。

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その後のシンポジウムでは、「Solve the Problem」と題して、野杁由一郎先生(阪大歯学部)、木ノ本喜史先生(大阪府ご開業)、井澤常泰先生(東京都ご開業)、によるご講演がありました。野杁先生には根尖病変を難治化させる大きな原因の一つとしてあげられるバイオフィルムについて、様々なエビデンスを交えながら詳細に解説していただき、続けて木ノ本先生には、根管解剖について歯種によって解剖形態を決めつけるのではなく、年齢に応じた歯髄腔や根管形態の変化にも注意を払わなければならないこと、井澤先生には、外科的歯内療法が根尖病変を持つ歯の問題解決に非常に大きな役割を占めることを示されながら解説していただきました。

1日目のプログラム終了後、私は、スタディークラブの同期の皆様とともに、学会で聞いた内容について、新潟の美味しいお酒やお魚とともに、深夜までディスカッションし、充実した1 日を過ごしました。

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2日目の午前中は、テーブルクリニックを聴きました。数年前のこの学会のテーブルクリニックは、ただただ自分のテクニックを発表するだけの「自慢大会」となってしまい、説得力に欠けるプレゼンテーションが散見されましたが、本学会のクリニックではほとんどが、個々の意見の主張ではなく、しっかりとしたエビデンスに基づいたうえでの症例の提示やテクニックの紹介をするプレゼンテーションがなされており、いろいろ勉強をさせていただきました。中でも注目を集めていたのが、私が所属するスタディークラブ:ペンエンドスタディークラブインジャパンを代表してエントリーされた高橋宏征先生の、「根管治療に反応しない症例の原因とその対処法」と題したご発表で、通常の歯内療法では反応しない、または治療が不可能な根尖病変に対して、歯内療法外科を用いた治療法のご紹介を、様々なエビデンスや有用なテクニックを交えながらご紹介されていました。私自身、興味深い症例とエビデンスに基づいた意思決定のご供覧にいろいろ勉強させていただきましたが、2回のご発表とも、観覧スペースから人があふれるほどの聴衆が集まる盛況でした。その注目度の高さと示唆に富んだ内容から、見事、大会会長賞を受賞されました。

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その後は、日本歯科大学新潟歯学部五十嵐教授、奥羽大学歯学部高橋教授、東京都ご開業の澤田則宏先生によるシンポジウム「Current Excellence」を聴きました。五十嵐教授はNi-Tiロータリーファイルの歴史についてと未来への展望、高橋教授はエンドペリオ病変において、アプローチと治療の限界、澤田先生は歯内療法領域の再生療法について、現在までのエビデンスを交えながら解説していただきました。
特別講演、招待講演、シンポジウムとも、学会テーマのようにエビデンスとアートが融合されたプログラムが組まれており、我々臨床家にとっても非常に有益な2日間でした。今後も、本学会で多く語られたような正しいPhilosophyが日本に広まることを期待しながら、私もその一端を担えるような臨床を実践したいと誓い、新幹線で新潟を後にしました。

執筆者 小笠原 正卓PESCJ5期)