A:不必要な撮影は絶対に避けるべきですが、自然界から受ける年間放射線量から考えれば全く大丈夫と言えるレベルです。

近年、レントゲン撮影の際の放射線の被曝に対する患者さまの意識は高まってきております。歯科治療、特に根の治療(根管治療)において、複数枚のレントゲン写真(X線撮影)を撮影することがありますが、放射線の被曝に対する健康被害のご質問を頂くことが増えてきました。

①なぜ根管治療中に複数枚のレントゲン写真が必要なのか

治療前      病変や骨・歯の解剖学的形態の把握の為、複数方向から複数枚撮影

治療中      器具の到達度その他の把握

治療後      根管充填剤が適切に詰められているかを確認

経過観察     状態評価と経過観察の為

各段階において病変の解決のために必要な事項をチェックしていきます。(2016年6月21日コラム「根の治療中、なぜ何枚もレントゲン写真を撮るのでしょうか?」参照

②では実際の被曝量とはどれくらいのものなのか

そもそも、私たちは日常生活においても、常に放射線の被曝をしております。

放射線の被曝には

・自然放射線:宇宙から、大地から、食べ物からetc

・人工放射線:ガン治療、心臓カテーテル、CT検査、胃のX線検査、PET検査etc 

があります。

 

 

 

 

 

 

 

 

『放射線被曝早見表』(東京都歯科医師会より引用)

 

国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構の平成30年の『放射線被曝早見表』を見てみると、1人当たりの自然放射線による被曝は日本平均で「年間約2.1✳︎1ミリシーベルト(以下mSv✳︎)」と報告されています。

✳︎1平成30年5月16日 放射線医学総合研究所発表より引用

「2011年4月にホームページに掲載した早見図の記載(年間1.5 mSv)は、1992年8月に発行された「生活環境放射線(国民線量の算定)」(財団法人 原子力安全研究協会)から引用しました。2011年12月に「新版生活環境放射線(国民線量の算定)」が発行されたことから、根拠となる論文を精査の上、必要に応じ当該論文の著者に研究手法等を確認すること等によりその信頼性を検証し、2.1 mSvの値を採用することといたしました。」

✳︎2国立保健医療科学院生活環境研究部より引用

皮膚が放射線炎を起こすような急性反応は局所の線量を考えます。全体としての発がんリスクを考えるときには全身での線量を考えます。局所の線量ではGy(グレイ)(平均吸収線量)が全身の線量ではSv(シーベルト)(実効線量)が用いられています。

ちなみにこの早見図の人工放射線の一番下に「歯科撮影」とあります。すなわち人工放射線の中では比較的安全な部類に入る、ということです。

  そこでもう少し詳しく見て生きます。歯科診療における各種レントゲンの被曝量ですが各種報告の時期により多少数値が異なります。

東京都歯科医師会が発表している被ばく量は

歯科用CT  約0.1mSv

デジタルパノラマレントゲン撮影 約0.03mSv

デジタルデンタルレントゲン撮影 約0.01mSv

と報告されています。

また全国歯科大学・歯学部附属病院 診療放射線技師連絡協議会の発表では

頭部X線CT  約2mSv

パノラマレントゲン撮影 約0.01mSv

デンタルレントゲン撮影14枚法 約0.15mSv

との報告があります。なおアナログレントゲンの場合は、デジタルの3倍~10倍とも言われています。

 例えば、東京ニューヨーク往復で飛行機上で受ける放射線量は約0.19mSvは、デジタルデンタルレントゲン撮影約19枚分と言えます。あるいは年間に生活して受ける自然放射線量2.1mSvは、デジタルデンタルレントゲン撮影約200枚分とも言えます。

ただし、機種により上記の数値は多少変動しますので、必ずしもその枚数とは限りませんが、いずれにせよ被曝量としては自然放射線からの被曝と比較して数値は小さいとも言えます。

また、実際に歯科医院で撮影する際には、首から下に対しては撮影時にプロテクター(鉛の入った防護エプロン)をしてから撮影する場合が多いです。もちろんプロテクターをしても、照射野(実際に直接観察したい場所とその付近)自体を防護することは出来ませんので、全く被曝量をゼロにすることは出来ませんが、少なくともそれより下部の肺や遺伝に関係する生殖器は被曝を避けることが可能になります。(そもそも歯科のレントゲンの場合、照射野は極めて限定されており、首より下の部分にほとんど被曝は起こりませんので防護服自体の着用も本来必要ないとの意見もあります)

もう少し知りたい場合は同じく全国歯科大学・歯学部附属病院 診療放射線技師連絡協議会の公表している「被ばくに関するFAQ http://jort.umin.jp/jort-doc/hibaku-faq.html」を見てみてはいかがでしょうか。

 

さて最後に少し歯科用CTについても触れておきましょう。

従来、歯科医師はデンタルレントゲンとパノラマレントゲンの2種類のレントゲン撮影によって人間の立体的な解剖学的形態のところを、なんとか平面写真によって歯の解剖学的形態や骨内の病変を見つけようと努力してきました。

近年CBCT=Cone Beam Computed Tomography(以下CT)の出現により3次元画像をパソコン上で見ることが出来るようになり、近年根管治療の分野においてもより精度の高い治療を可能とすることが出来るようになりました。より高い精度での見逃し根管の発見や歯の破折状況の解読、骨内外の病変の存在の有無や上顎洞・下歯槽管など重要な解剖学的要素との接近具合の確認など、再根管治療歯内療法外科などを行う際には非常に役に立つ重要な装置となりました   

 

 

 

 

 

 

通常のレントゲンでは情報としては不十分に見える)

 

 

 

 

 

 

 

 

(CBCTにより、未治療の根管と根尖性歯周炎の存在を認める)画像提供:髙橋宏征(PESCJ3期)

しかしCT撮影においても被曝はします。デジタルデンタルレントゲンやパノラマレントゲンに比較して高い被曝量となります。もちろんそれでも自然放射線による年間被曝量や人工放射線の医科用CTなどに比べるとはるかに低い被曝量であります。 

歯科用CT、デンタルレントゲン、パノラマレントゲンのいずれも根管治療においては非常に有用な装置です。病変を治癒に導くためには、誤診を防ぎ正しく診査診断を行うことが必須条件です。

病変の治癒が被曝のリスクよりも患者利益につながると歯科医師・患者の両者で合意できた場合は、従来の2次元レントゲンは撮影させていただき、その上でさらなる詳しい情報が必要であると判断した場合には歯科用CTまで撮影することが安全でより精度の高い治療であることをご理解いただければ幸いです。

執筆者:田渕 康允(PESCJ10期)