我々、歯内療法専門医及び専門医レベルの歯内療法医は一本の歯の治療で、最低で6枚ほどレントゲン写真を撮影します。また、その後の定期的な検診でも、術後の経過を確認するためレントゲン撮影を行います。「ずいぶん多く撮影するのだなあ」と思われるかもしれません。また、撮影枚数が増えることにより、被曝量が気になるのではないでしょうか?

今回のコラムは、この2点、①なぜ複数枚のレントゲン写真を撮影するのか、そしてその際の②被曝に関して、解説を行います。

①なぜ我々はこれほど多くの枚数を撮影するのでしょうか?

治療の前、間、後の3段階に分けて必要な理由をご説明いたします。

まず治療前の2枚。全く同じ写真を撮るわけではありません。正放線撮影と呼ばれる正面からの写真と、偏心撮影と呼ばれる前後どちらかにわずかに角度をずらした写真、2枚を撮影します。

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(正方線と偏心線のイメージです)

「正放線で根が重なっていて、偏心撮影で副根がわかるレントゲン写真2枚。」

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真横からの撮影だけでは、根が複数のものだとどうしても重なって写ってしまうものもありますし、少し角度をずらすことで重なってしまった根を診断できます。そして2枚あることで、平面ではなく立体的に頭のなかでイメージすることも可能になるのです。

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(頭の中でのイメージです)

次に、治療中の2枚。治療に用いる器具を入れたものと、根に詰める充填材を入れたものの2枚です。なぜ、治療中にも2枚も異なったレントゲン写真が必要なのでしょうか?

「ファイル試適とポイント試適のレントゲン写真計2枚。」

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世界に誇るべき日本の発明として、かなり正確に根の長さを測定する機械があるのですが、状況によってはエラーが生じたりすることがあります。そのため、実際に器具を入れた状態でレントゲン写真を撮影し、器具の到達点にエラーがないかを視覚的に確認しているのです。また、根に詰める充填材を入れて撮影するのも、根の形を適切に形成できたかを確認するために撮影しています(根が重なってしまう場合は少しずらしての撮影が加わることもあります)。

そして、治療後の2枚。可能な限り治療前と同じ角度で撮影を行います。この2枚ずつを見比べる事により、適切な封鎖が行われているか、もともと歯が持っている形を壊していないかなどを判断します。

「術後レントゲン写真2枚。」

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治療の難易度や状態によっては、さらに撮影を行う事もありますが、概ね6枚ほど必要なことがご理解いただけたでしょうか。

また、定期的な検診でも、同じように2枚撮影を行う事により、治癒が順調に進んでいるのか、それともさらなる治療が必要なのか、などの評価を下す事ができるのです。

また「治療のステップごとのレントゲン」という客観的な記録は、治癒の可能性が100%ではない以上、「医療として最善の注意義務を行った」という患者さんとの約束のような役割も担っています。

 

「経過観察(定期検診)時のレントゲン写真2枚。」
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症例提供:高橋宏征PESCJ 3期)

②被曝に関して

報道などにより、放射線の被曝をかなり心配されていると方もいらっしゃるのではないでしょうか。我々、歯科医師が使用するレントゲン写真や歯科用CBCTに使われているレントゲンも、放射線の一種です。根管治療(根の治療)に用いるレントゲンによりどの程度被曝し、どの程度の影響があるのでしょうか。

その前に知って頂きたい事実があります。実は、私たちは普段の生活でも被曝しているのです。空気や土壌、水から放射線が発生し、我々は自然に被曝しているのです。こうして受ける被曝を自然被曝と言います。よく例えに出てきますが、東京-ニューヨーク間を航空機で往復した場合に被曝する放射線量の10倍以上を1年で被曝します。

治療の為に、歯科医院で行うX線撮影による被曝は、自然被曝の約1/100です。さらにデジタルX線装置で撮影を行う場合は、さらにその1/10となり、つまり自然被曝の約1/1000となります。

全国歯科大学・歯学部附属病院診療放射線技師連絡協議会のポスターが非常にわかりやすいので、掲載しておきます。(http://jort.umin.jp/img/sv_hikaku_a.pdf

だからと言って、何枚撮影してもいいということにはなりません。線量制限勧告であるALARAの法則を考慮に入れ、ご本人の価値観や考え方にもよりそい、最低限の撮影枚数で済ませる必要性があります。可能なかぎり歯を残すために、予知性の高い歯内療法(根の治療)をお望みであるならば、治療時の複数枚のレントゲン撮影で得られるメリットに比べ、被曝のリスクはほぼ無視できるレベルと言えるのではないでしょうか。

また胎児への影響を気にされる方もいらっしゃると思いますが、国際放射線防護委員会(ICRP)でも、診断目的のX線程度では、胎児への影響は無視できるとされています。ICRPでは、胎児に対して影響が無いとされる線量(しきい値)を、100mGyとしています。100mGyとはどの位の線量かというと、胸のX線撮影で胎児が受ける線量は0.01mGy以下、仮に胸のX線撮影を1万回受けると、胎児の受ける線量が100mGyということになります。歯科のエックス線撮影は一般に行われる胸部X線撮影の1/3-1/10の被曝量である上、放射線を遮断する鉛入りの防護エプロンを着用するので、被曝量は極めて少ないのです。

だからといって強制的に撮影をすることはありませんので不安なことは是非遠慮なく歯科医師にご相談下さい。

 

今回は、根の治療中なぜ何枚もX線写真を撮影するのか、そしてその際の被曝に関してお話しをいたしました。もし、神経の治療を勧められたのであれば、このような理由があって複数枚のX線写真を撮影するのだとご理解していただき、安心して治療を受けていただきたいと思います。

 

執筆者:森 隆充(PESCJ 7期)