歯の神経を取ると歯が脆くなりますか?

時々、歯医者さんから、「歯の神経を取ると、歯が脆くなって割れ易くなります。」と説明されるのを聞いたことがあるかもしれませんが、本当でしょうか?

神経がある歯は、「生活歯」と呼ばれ、神経がない歯は「失活歯」と呼ばれます。

歯が脆くなる、とはどう言う状態でしょうか?枯れ木に例えられることも少なくありません。

 

 

 

 

 

 

 

枯れ木、、、、水分が抜けて脆くなってしまうのでしょうか?

また、歯の神経がなくなると、歯の強度が弱くなってしまうのでしょうか?

ある研究では生活歯と失活歯の水分量を比較したところ、失活歯は生活歯に比べて9%の水分喪失しか認められなかったと報告しています。1)

 

 

 

 

 

 

 

また、生活歯と失活歯に対して色々な力を加えて歯の強度を調べたところ、全ての試験において差はなかった、と報告した研究もあります。2)

水分が抜けて脆くなってしまうわけでもなく、歯の強度が弱くなってしまうわけでもありません。つまり、根管治療を行った失活歯は、生活歯と比べて歯の質はほぼ変わらないと言えます。

では、歯医者さんが説明する「歯の神経を取ると、歯が脆くなって割れ易くなります。」は間違いなのでしょうか?

歯の水分量や強度が変化するわけではないのに歯が割れやすくなるとはどういった理由でしょうか?

全く問題がない歯にいわゆる「歯の神経の治療」を行うことはありません。むし歯や以前に行った歯の神経の治療のやり直しなどがきっかけで「歯の神経の治療」を行うことになるはずです。

ここで、歯が「歯の神経の治療」を受けるまでの過程で、どの程度の歯質が失われたかという問題が挙げられます。

根管治療と修復処置(被せ物や詰め物を入れること)が歯の強度の低下にどの程度影響を及ぼすかを検証した研究があります。3)

①先に根管治療を行った場合、

と、

②先に修復処置のために歯の切削を行った場合

で、それぞれの過程での歯の強度の変化を比較しました。

結果は、処置の順番に関わらず、「歯の神経の治療」自体は5%程度しか歯の強度を低下させませんでした。しかし、歯質を失うことは強度の低下に大きく影響を及ぼし、60%以上低下させました。

このことから、失活歯は物理的に残る歯の量が少なくなることで、生活歯に比べて割れやすくなってしうといえます。

大きなう蝕などで神経を取らざるを得なくなった、という根管治療を行う過程で歯の量が減少することで強度が低下し、割れやすくなるのです。

これまで述べたように、失活歯は歯が割れやすくなりますが、それは根管治療自体により歯の質が悪くなり、脆くなるわけではありません。根管治療を行う原因である、大きなう蝕や以前の修復物により歯の厚みや形態が失われることで強度が低下してしまいます。

「歯の神経の治療」が歯の強度を弱めてしまうわけでないこと、歯質を失うことが歯の強度を弱めてしまうことがわかっています。また、「歯の神経の治療」を行った歯に対しての適切な修復の方法も様々な報告がなされています。「歯の神経の治療」の結果をより良いものにするためにも「歯の神経の治療」が終わった後の修復までしっかりと治療されることをお勧めいたします。

執筆者:酒井 奈菜恵(PESCJ12期)

(参考文献)

1)Helfer AR, Melnick S, Schilder H. Determination of the moisture content of vital and pulpless teeth. Oral Surg Oral Med Oral Pathol 1972; 34(4): 661-770.

2)Sedgley CM, Messer HH. Are endodontically treated teeth more brittle? J Endod 1992; 18(7): 332-325.

3)Reeh ES, Messer HH, Douglas WH. Reduction in tooth stiffness as a result of endodontic and restorative procedures. J Endod 1989; 15(11): 512-516.