神経を取ったのに噛むと痛みますが、なぜですか?

治療の説明の便宜上、「神経を取った」「取り切った」と説明されることが多いかと思いますが、実は神経を全て取り切ることは極めて困難です。ルールに則った根の治療を行うことで多くの場合、治療後は不快感が軽減されますが、まれに治療後に痛みとして不快症状がのこる場合があります。

1.噛むと痛い(咬合痛)ことの起こる原因として主に次のようなものが考えられます。

①根尖周囲組織への器械的な刺激

②細菌感染が取りきれていない

③非歯原性疼痛

①は、根管の神経を取る際に、器具や洗浄液が根の先端を刺激したりするといった治療時の刺激による痛みです。多くは一過性のものですぐに消失することが多いです。根管内の神経を除去する際に、器具が根尖孔外の歯周組織を刺激しないように作業長を厳密に設定し、洗浄液が根尖孔外に出ないように洗浄圧を根尖に加えてように注意することでかなり予防できます。

 

 

 

 

 

 

 

②は、複雑な解剖学的形態により器具の到達や洗浄することが困難な部分や、見逃された手付かずの根管などに細菌が残存した場合、根管治療後も根尖周囲組織に炎症が残り、噛むと痛い(咬合痛)を引き起こします。この場合は痛みが残ったりすることが多いです。

 

 

 

③は、歯以外に原因がある疼痛の総称で、中枢性あるいは末梢性の神経の障害による痛みが主となります。また咬む筋肉の痛みを歯の痛みと感じてしまうこともあります。原因が歯にないので、歯を治療しても痛みが治りません。

 

2.診断について

噛むと痛い(咬合痛)の原因は術前診査では非常に困難です。

現実にはマイクロスコープを使用した拡大視野のもと、取り残したう蝕や見逃されている根管など、治療が不十分な部分の精査が重要となります。そのような不十分な部分の問題を解決しても痛みが残ってしまう様な場合、③の歯以外の原因の可能性について精査する必要があります。

3.原因に沿った対処(治療)方法について

①器械的刺激の場合、できるだけ刺激を加えず安静にします。痛みが強い時は鎮痛薬を服用します。

②細菌感染の除去が不十分と考えられる場合、適切な環境のもとで再度根管治療を行います。通常の処置で対処できない解剖形態がある場合には外科的歯内療法が適応されることもあります。

③非歯原性疼痛が疑われる場合、口腔顔面疼痛専門医への紹介を行い、対診しながら処置を進めることになります。

いずれにせよ治療の環境が不十分な状態で治療を続けていても何が原因か判断つかないことも多くいたずらに不快な状態を長引かせてしまうことにつながります。長く痛みが続く様であれば専門医の治療を検討しても良いのかもしれません。

 

執筆者:大科 英和(PESCJ11期生)